第1章

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 「明日各自で詳しく説明するけど、地下の施設は盛りだくさん。仮眠室もあるし、ただの広間だけど専門医だけの休憩室も用意されている。治療とかに必要な用具もここにしまってる。なんとなんと、研究室とかいって製薬の実験なんかも出来るようにしてあるわけ。ちなみに仮眠室ってのは個室になっていてさ、各自に部屋が割り当てられる。そんなに広くもないけど住居にする人もいるし、全く使わない人もいるから使い方は千差万別」  個室と言う言葉がヴァイから発せられると、研修医たちはどよめいた。ただの医者ならばこんなことあり得ないだろう。改めて専門医の環境が恵まれていることを思い知ったのだ。  「で、お前らにも部屋を割り当てる。今日はそこに寝とけ」  いつの間にかその個室の場所に着いていたようで、ヴァイが名簿を見ながらポケットから鍵を取り出した。  そのときだ。  甲高くてけたたましいベルの音が鳴り響いた。研修医たちがびくっと肩を震わせるなか、ヴァイは落ち着いた様子でもう一方のポケットから何かを取り出す。  ヴァイの掌に掴まれているそれは赤い円盤状のもので、この嫌な音がそこから発生していることにレルヒは 気づいた。  「今かよ……どうすっかな。俺は呼び出されたから上に行く。お前ら名簿見て自分たちで部屋と鍵割り当てろ。もう寝ていいから。名簿はそこ置いとけ」  名簿と鍵の束を放ったヴァイは駆け足で階段に戻っていく。指示された若者たちは呆然とその姿が消えるまで見送っていた。  しばらくしてカイユが名簿を手にとった。  「それじゃ、言われたとおり配っていくわ」  研修医たちの多くはいきなり自分たちがほっぽり出されたことに納得いかない様子だったが、カイユに鍵を配られることで納得はできないまでも文句を言うことはなかった。もしもカイユがわざと文句を言わせないようにタイミングを計って自ら鍵の配分に乗り出したのなら、彼にはカウンセリングの才能があるかもしれない。レルヒはぼんやりと、記念すべき初日があっさり流れていくのを感じていた。  時刻は零時半を過ぎた頃。昼の時間帯は専門医の仕事が忙しくなる時間だ。いくら昼でも暗いにせよ、多少は陽光が差してしまう。そういうときに患者は発作を起こす。寝静まった夜に研修医たちを集合させたのはそういう理由からだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加