第1章

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そう聞いたが返事はなく、隣に座った彼女は青ざめた唇を噛んでいた。   「大丈夫?」 僕は、彼女の肩にそっと手を置いて覗き込んだ。 消え入りそうな声で彼女は言った。   「家で待ってるって言われて。さっき逃げ出した時。家を知ってて。私が一人暮らしなのも。…行くところもないし、どうしよう」 彼女が怯えているのが伝わって、正直、僕もぞっとした。 その時、   「どちらまでですか?」 小声で話す僕らに、何か煩わしい事が起きているのではないかと悟った運転手のイライラした声がした。
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