第1章

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「笙さん、週末なのに一人とはもったいないね」 自分だって、この店に一人で来ている榊が、ほろ酔いで僕に絡んでくる。   「そうだな。一人でなければ、君の様な輩に目をつけられることもないかもな」 「相変わらず今夜も冷たいなぁ」 僕はマスターに向かって、空いたグラスを掲げて見せる。   「ドライマティーニを」 マスターのドライマティーニは、最高に旨い。 目の前に置かれたグラスを口に近づけると、ほのかにレモンの香りが漂い、冷たくきりっとしたジンがヴェルガモットの風味とともに広がっていく。 辛口に仕上げるドライマティーニは多いけれど、マスターの作る物は、香りとのバランスがとても心地いい。
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