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それから、外で一度逢ったことがある。
出勤しようと外に出たら、鍵の落ちる音がして。
「あ、落ちましたよ?」
声をかけて鍵を拾い上げた。
「すいません」
低い艶のある声が聞こえて……振り向いたのは向かいの男だった。
ワイルドに無精ひげを生やして、少し不機嫌な顔をした男の綺麗さと言ったら半端なくて……息が止まって。
それから前の日に男の半裸を見てしまい、散々自分を慰めたことを鮮やかに思い出して、顔に血が上った。
すっと手のひらが差し出される。
その手に触れないように気をつけながら、鍵を手に乗せた。
馬鹿みたいに指が震えて、自分を殴りつけたくなる。
握りこんだ手がかすかに触れた。
それだけなのに、すごく嬉しくなる。
「ありがとうございます」
低い声が丁寧に言って、オレの顔を見る。
どこかで見たかなとか思い出そうとしているのかな。
平凡な顔立ちだから向かいに住んでいたって覚えているわけがない。
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