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心臓が止まりそうになる。
むしろもう止まってしまえばいい。
絶対見られてた。聞かれていたかもしれない。
聞かれていなくても、喘いで、陶酔していたのはわかったに違いない。
このまま消えてしまいたい。
羞恥が身体を這い回る。
ひくっと吸い上げた息が止まった。
カーテンに近づく勇気がなくて、ベッドに逃げ込んだ。
ぐるっと布団を巻きつけて、震えながら壁を見つめる。
男が部屋に入ったら、カーテンを閉めればいい。
そう自分に言い聞かせてじっと息を殺す。
揺るがない視線を感じて、背中が熱い。
絶対見てる。
ぶるぶると震えながら、寝返りをうつとやっぱりまだ男はベランダにいた。
案外遠いようで近い都会の部屋だ。両方の部屋の明かりが暗いから、男の表情ははっきり見える。
目が合って、男の口がゆっくりと弧を描いて微笑むのを見つめた。嘲るでも、皮肉るのでもない誘うような唇がタバコの煙を吐き出した。
男の唇がゆっくりと言葉を作り出す。小さい声なんだろう。声は聞こえなかった。でも。オレにはあの時の艶やかな低い声がはっきりと聞こえた。
お か し て あ げ る
立ち上がってカーテンを思い切り閉めた。
狂ったように動く心臓を抑えて、その場にへたり込む。
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