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からかっただけだ、そうに違いない。
震える手でカーテンの隙間から外を覗くと男の姿は消えていた。部屋の明かりがついてる。
ほっとしてる。そうだよな?
男の言葉に歓喜する自分をねじ伏せる。
じわじわと込み上げる涙を飲み込んだ。
馬鹿だな、あんな綺麗な男がオレなんかを欲しがるわけがない。
ベッドに潜り込んで、カタカタ震える自分を抱きしめる。
「別に引っ越せばいいじゃないか。」
強がりを言う自分の声が誰もいない部屋に虚ろに響く。
そもそも扱いてるところを見られたからって何だって言うんだ。
おっさんが一人であんあんしてる所を見て、ああやってからかって、楽しかったなら何よりじゃないか。
ピンポーン
ドアのベルの鳴る音がする。まさか。そんなはずはない。
無視して顔を枕に埋めると、責めるようにもう一度。
ピンポーン
やめろ、やめておけ。
頭の中に警鐘が鳴り響く。
だが、繰り人形のように、オレはよろよろと立ち上がりドアを覗いた。
真っ黒なくしゃくしゃの髪、綺麗な肩の線。
男だ。
コンコンと扉が叩かれた。
「ね?開けて?」
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