きっかけ

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「あの、」 私の小さな声にも、びっくりしたように 顔をパッと上げる。 「あ、ごめん。…何か?」 まるで、話しかけられる心当たりなんて何もないかのような彼の言葉に、一瞬怯んでしまうけれど、 「この前は、本当にありがとうございました。」 そう言い切って、頭を下げる。 そこまで下げる必要もないんだろうけど、 恥ずかしさもあって、頭を上げられない。 「あぁ。そんな、いいって。 別に俺、何もしてあげれてないし。」 「いえ、すごく助かりました。」 「なら良かった。 あのあと、大丈夫だった?」 「はい。少し休んだらすっかり良くなって 普通に仕事も出来ました。」 「そう。良かったね。」 そう言って、ふわっと笑う。 瞬間、心臓がギュッーっとなった。
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