第1章

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『巳桜御前、何をしている。護送中の例外級へのプロテクト可能な残り時間はあと四分だ。圏内にいるものは構わず切り捨てろ!! 処理はこちらで何とかする!!』  切羽詰った声から、口の端から泡を飛ばしながら話していることは想像に難く無かった。それはわざわざ公開回線を使用しているところからも窺える。  いやしかし、これは不味いのではなかろうか。  つまるところ、自分はこれから死ぬのではないだろうか。 再び破裂音、足元のアスファルトが砕ける。 「まだ調整が不十分なようですね。やはり通常時に変更してください」  無機質なオペレータボイス。 『承諾。セーブモードを解除、通常形態へと移行します』  と、少女の手にしていた箱型の兵装の一部が展開される。展開された部分から、大振りの刃が数枚せり出してくる。 「特壱級兵装『玉鋼』展開」 声と共に再び足元のアスファルトに幾つもの亀裂が生じる。  辛うじて直撃は免れる。  が、コンビニエンスの袋に入ったペットボトルのミネラルウォーターや、スナック菓子の袋はいとも簡単に裂け、湿ったスナック菓子がアスファルトに散らばることとなった。  ああもう、これでは二人の姉に怒られてしまう。  二つ上の姉は、絵に描いたような怒り方をするであろうし、そうなるのは面倒であるし本意ではない。仕方ない、また買い直してこよう。  四つ上の姉は――そもそもこんな夜更けに出かけたことを怒るだろう。それは仕方ないが、もしかしたらその買い直した分のお金くらいはどうにかしてくれるかもしれない。  今自分は死へと緩やかに向かっているというのに、このような暢気な事しか浮かばない。  アスファルトに散らばったスナック菓子を見て立ち尽くすことしかできない自分に、とうとう刃が沈み込んだ。  ぬめりとした鈍い感触。  それすらも感じる間も無く、あまりの熱さにアスファルトの上に転がり込み絶叫した。  そこで意識は途切れた。 ・・・  恐らくは左腕毎心臓を抉り取られたのだろう。肉体の痛みは何も感じず、ただただ消えていく意識を見つめているだけの自分がいる。  仕方ない、どうせ怒るであろう姉なら、ご機嫌取りのためにアイスクリームの一つや二つは仕方ない。いやむしろダイエット中だからと怒りを増長させるだけなのだろうか。  今もそんな暢気なことばかりが頭に浮かんでいる。  白へ、白へと意識が向かっていく。
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