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<父さん、母さん、ごめん>
そんな言葉も出ない。何故なら両方居ないからだ。だからと言って
<姉さんたち、ごめん>
などとのたまえるほど、自らは殊勝な人間ではなかった。
ああ、なんと心地良いのであろうか。思考の海を猶予う。海に身を委ねて、無重力。
遠のく意識、温かさに包まれる意識。絶頂を迎えるその瞬間。
意識は再び引き戻された
・・・
熱い。先ほどとは違う。激しく脈打つように心臓が熱い。声がする。
「シュタイン、起動。認証パス:sTe1NeR」
こちらは、まるで薄鈍色の石を打ち付けたような声だった。
熱に浮かされた頭をもたげて、声のする方に向けるとそこにはやはり、また別の少女が居た。
銀髪をなびかせ、鈍の羽をはためかせる少女。
その目も同じく、鈍色をしていた。
そしてその目は、自らを”只の石”と卑下するような冷たい光を湛えていた。
「例外級だと!? 保有者、プロテクトは!!」
『護送車から脱走しおった!! 交戦状態に入ったのなら、何機精霊を動員しても良いから早急に確保しろ!!』
焦燥と怯えだろうか。そのような感情が混じった声が、鋼色の羽の少女通信機越しに聞こえてきた。
「例外級をどんな手段を使ってでも確保しろ!!」
少女のその声に合わせて、鈍の少女を幾つもの特級精霊が取り囲んだ。特級たちは各々が武器を手にしている。
武器を振りかざし、構え、少女を仕留めようとする。
そして、その武器が少女を貫くことは無かった。
一瞬にして、特級の少女たちの外装が引き剥がされたからだ。引き剥がされた先からは、生々しい繊維質の人工筋肉が露呈する。悲鳴とも嬌声とも取れぬ声を上げる少女たち。
限りなく人に近かった少女たちが一瞬にして機械の体を露呈させる。そしてそこから除く筋肉も断裂し、フレームがひしゃげる。
そんな光景を見た自分は、言葉にできない恐怖を覚えた。
その中心に居る少女はまるで鉄屑でも見るかのように、少女たちの残骸を一瞥し、視線を「巳桜御前」と呼ばれた特級精霊へと向けた。
「目標を確認。排除します」
アスファルトが轟音とともに破れた。そこに少女はもう居なかった。
巳桜御前へと向かった少女は先と同じように鋼色の少女を鉄屑にしようとする。
しかしそれは遭えなく複数の刃に阻まれることとなった。
詠唱を始める鋼色の少女。
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