第2章

11/37
前へ
/37ページ
次へ
「えっ?」 彼女は驚いた表情を浮かべてピンと背筋を伸ばす。 「いや、だから、妻子ある人とそういう関係になるってことは、傷つく人がいるってこと……俺が言っても説得力ないけどさ。それに、人に言えない恋愛って悲しくない?俺もそうだったからわかるけど」 真剣に頷きながら聞いていた彼女が、ポツリと言った。 「愛していないとはっきり言われれば、すぐに彼の人生から出ていく覚悟はあるんです」 「そっか」 でも、上妻課長はその言葉を言わないってことか。 「君は自分からは出ていくつもりはないんだ?」 「出たい気持ちはあるんだけど、彼と会ってしまうとその気持ちがブレてしまうんです」 「そっかー……」 これ以上、彼女へ掛ける言葉が出てこなかった。それは、彼女の気持ちが痛いほどわかったから。 俺も愛莉と付き合っている時、何度も亜美との関係を切ろうとした。けれど、亜美の弱さを目の当たりにしてしまうと、見捨てることが出来なくて結局愛莉を傷つけてしまった。 本当に大馬鹿野郎だった思う。一番大切な者を失うまで、自分の罪の重さがわからなかったのだから。 だからこそ、小早川さんには俺のようになってほしくない。でも、どうしても離れられない彼女の気持ちもわかる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加