未来は、きっとあるから

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退院してから、私は知樹の部屋に転がり込んだ。 退院したとはいえ、体力が落ち、満足に日常生活を送れなかった私を、知樹は支えてくれた。 リハビリを懸命にこなしたおかげで、ナースの業務にはさしつかえないほど、手の機能も戻った。 「沢井さん、ヘルプ!」 「はい。なんでしょう」 病棟主任が私を呼ぶ。 「木原先生、また患者さんにつかまってるの。もう外来なのに。私が行っても、『なんだあんたか』だって」 「了解しました」 私達は、目指していた医療ができているだろうか。 孤独な高齢者に寄り添い、それでいて、高山でも高い水準の医療を提供する。 自分達の力だけではとうてい叶えられない高い目標に向かって、きちんと走れているだろうか。 「沢井さん、待ってたわよ」 「おはようございます。今日もいい天気ですね」 私と交代で知樹が出ていく。 私に目配せしながら。 そして、新しい生活が軌道に乗りかけてきたころ……。
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