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「楓はちっとも悪くないさ」
両親のケンカの矛先が、私に向くことはしばしばだった。
そしてそれに耐えられなくなり、駆け込んだ知樹の家で、彼に泣きついてしまった。
「だって、私がいるからって……」
「違うよ。楓の父さんも母さんも、ちょっと機嫌が悪いんだ。そういう時って、誰かに当たりたくなるだろう? 今がそれ。だから楓はとばっちりを受けちゃっただけ」
まだ中学生だった知樹の言葉は、とても大人びていた。
「楓っていう名前、あの紅葉からつけてくれたんだろう?」
知樹は窓から見える、見事に色付きはじめた紅葉に視線を移す。
「うん」
「紅葉が真っ赤に紅葉するように、楓も美しい女性に育ってほしい。そして、誰からも愛されるようにって」
「うん」
「ちゃんと愛されて生まれてきたんだよ、楓は」
知樹は一番欲しい言葉をくれた。
父と母の存在を忘れたいわけではなかった。
どんなに辛くても、やっぱり大好きだったから。
私はただ……父と母にとって必要な存在なのだと、誰かに言ってほしかったのかもしれない。
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