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一旦家に戻って荷物を持つと、丘の上のホテルに向かった。
「露天風呂、楽しみだ」
「知樹、疲れてるから、ゆっくりしてね」
医局で寝ることもしばしばだと言っていた彼は、こんなにゆったりとした時間を持つのは久しぶりなはず。
こうして雨が降らなければ、今頃街中で人ごみに紛れていたに違いない。
だけど、たまにはなにもせず、のんびりするのもいいものだ。
丘の上のホテルは、エントランスもピカピカに磨き上げられていて、濡れた靴で入るのがためらわれるほどだった。
「お客様、ご宿泊でよろしいですか?」
一馬はフロントで忙しく働いていた。
私達を見つけて一瞬ニヤリと笑った彼は、すぐに真顔に戻り、パソコンを操りはじめる。
「本日シングルを二室ご予約の……」
「シングル?」
知樹が一馬に怪訝な目を向ける。
「これは失礼しました。ツイン一室、の間違いです」
ふたりのやり取りを後ろで聞いていて、吹き出してしまった。
わざとに違いない。
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