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「夕食は、十九時半にご予約ですね。それまで、よろしければ温泉にでも」
事務的な一馬は、チラッと私に視線をよこす。
「本日は雨で残念でしたね」
「はい」
なんだか話しにくい。
だけど、一馬が堂々と、そしてテキパキと働く様子を見て、私達は大人になったのだと実感した。
「温泉は、二階にまたがっております。本日は、七階が女性専用、五階が男性専用となっておりますので、絶対に、絶対に、お間違えなく」
「間違えねぇよ」
あきらかに知樹をからかっている一馬に、知樹は小声でささやく。
「それでは、おくつろぎください」
一馬から鍵を受け取ると、エレベーターに向かう。
「ちゃんと働いてるんだな、アイツ」
「そりゃ、そうだよ」
一馬の凛々しい姿は、幼馴染みとして誇らしい。
一馬が用意してくれたのは、大きな窓から北アルプスを一望できる素敵な部屋だった。
「素敵!」
毎日目にしているはずの景色も、特別な部屋に来ると、少し違って見える。
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