2276人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
大きな紺のリボンがついたバナナクリップは、まだ未熟な私には大人すぎて見えだけど、それでもすごくうれしかった。
「だけど楓ってさ」
「ん?」
「最近、うれしいときだけ俺ん家来るんだな」
「そう、だっけ?」
そんな意識はないけれど……。
「ほら、もっとチビの時はさ、かじゅまーって言って泣いてたのにさ」
「言ってないし」
そういえば……小さな頃は辛いことがあると、なにも考えずどちらかの家に飛び込んでビービー泣いていたような。
いつからだろう。
とてつもなく泣きたい日は、知樹の家に向かうようになったのは。
どうしてだろう。
知樹の前だけで泣いてしまうのは。
「ま、いいや。楓の笑顔好きだし」
「今度から一万円ね」
手を出して広げると、一馬は不思議がる。
「は?」
「私の笑顔は一万円するの」
「調子に乗るな、コラ!」
ただ、一馬とこうして笑い転げるのが楽しかった。
最初のコメントを投稿しよう!