2276人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
「だけど、元々別の人間が一緒になるんだ。うまくいかないことだってある。楓の家は今そんな状態。結婚って、確かにいいことばかりじゃないよな。でも……未来が詰まっていると思うんだ」
「未来?」
そういえば、父と母と三人の未来について、考えたことがない。
というか、考えられない。
「そう。ひとりでは知ることができない世界が、いっぱいだ」
知樹は薄い唇を少し上げて微笑む。
「たとえば、自分にはちっとも興味がなかったことでも、パートナーが心動かされるのを見て一緒に感動したり、ひとりでは行ってみようともしなかったところだって、ふたりだと行きたくなったりする。それで……」
そこで彼は口をつぐんだ。
「知樹?」
「そうやってふたりに子供ができたら、今度は三人分の幸せがやってくるんだ。楓の父さんと母さんは、今まであまりにも幸せだったから、小さな幸せに気がつかなくなってしまったのかもしれない。でもな……」
「知樹……」
ポロポロこぼれてくる涙が、ひとつふたつと握りしめた拳に落ちていく。
最初のコメントを投稿しよう!