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真っ直ぐに私を見つめる知樹が、ゆっくり近づいてくる。
彼の大きな手が、私の頬の涙の跡をそっと撫でて――。
「楓が泣いた時間は、俺が一緒に取り戻す」
もう目をそらすことができなかった。
心臓が今までにないほど大きく打ち始める。
苦しくて息ができない。
知樹は私の頬に置いた手を顎に滑らせる。
そして、彼がなにをしようとしているのか理解した私は、ゆっくり目を閉じた。
私も、知樹が……好き。
やがて、唇に柔らかくて温かい知樹の唇が触れる。
私、キス、してる……。
初めてのキスが知樹で、本当にうれしい。
じゃれ合っていただけの私達は、いつの間にか大人の階段を上がり始めていた。
それから知樹はなにも話さない。
ただ私を抱き寄せて立ち尽くしていた。
小さな頃は私の方が背が高い時期だってあったのに、今や彼は私より頭ひとつ分高くなった。
そして、華奢だった体は、驚くほど筋肉がついて、「男の子」からいつの間にか「男」になっている。
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