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私は幸せだった。
ついさっきまで両親のケンカを見て悲しい気持ちだったのに、知樹に抱きしめられ、悲しみが喜びに塗り替えられていた。
未来って、こういうことなのかな?
たとえ今、辛いことがあっても、未来はそればかりではないのかもしれない。
初めてそう思えた瞬間だった。
だけどその一方で……私も知樹も、交わしたキスの重みを痛いほど感じていた。
いつも三人だった私達の関係が、崩れた瞬間だったから。
知樹とこういう関係になったことを、いつまでも一馬に隠してはおけない。
だけど、どうしても言うことができない。
知樹は「俺が話す」と言っていたけれど、期末テストが終わってからにしようと話し合った。
でも、一馬は一見ガサツそうで繊細な人。
私達の変化に、すぐに気がついてしまった。
「古い町並み寄ってく?」
学校帰りの一馬の提案はいつものことだけど……。
「うん。一馬はまた牛串焼き?」
一馬が私達を誘うのは、お肉が食べたい時。
「うーん。どうしようかな」
珍しく、「肉」と言わない一馬に、首を傾げる。
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