2284人が本棚に入れています
本棚に追加
一馬は優しい。
知樹と付き合うことになって、結果的に「男」としての一馬は拒否している。
それなのに、まだ飛んでこいと言ってくれている。
「あとは、知樹とケンカしたら、また俺んとこ来い。うまい漬け物ステーキ用意してやる」
「ステーキなら飛騨牛にしてよね」
「あはは」
実に一馬らしかった。
彼の優しさが身に染みた。
一馬の旅立ちの日。
私と知樹は一緒に高山駅まで見送りに出た。
「大袈裟な。知樹なんてあっちに行っても近所だし、楓もいつだって会えるだろ?」
一馬はそうやって笑ってみせたけれど、毎日のように時間を共有してきた私達にとっては、ほんの少しの別れも辛いもの。
「知樹、ちょっと」
「なんだよ」
一馬が知樹を呼んでなにやら耳打ちすると、知樹は小さくうなずいた。
「なに?」
「なんでもないさ。それじゃあ、今度は名古屋で」
爽やかな笑顔を残して、一馬は去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!