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「すごく穏やかな最期だったよ。まるで眠るように苦しむこともなく逝ってしまった」
目を伏せる彼は、その時のことを思いだしているのかもしれない。
「亡くなったあと、俺に遺書が残されていることを知った」
「知樹に?」
彼は大きくうなずき、その遺書をバッグから取り出し、私に差し出した。
【木原君。私は君に人生を幸せにしてもらえたよ。ありがとう。
家族も医者も「まだ死なないよ」というだけで、誰も私の気持ちに向き合ってはくれなかった。
だけど君は、きちんと死が近いことを認め、一緒に苦しんでくれたね。
それでどれだけ気持ちが楽になったか。
木原君は、人を死なせてしまったと言っていたけど、私は君に生かしてもらった。
きっと私のように君を必要としている人がいる。
だから、後悔ばかりしていないで、頑張りなさい。
さようなら。ありがとう】
涙が、テーブルにポタリと落ちた。
これがきっかけで、彼はまたドクターの道を歩き始めたのだろう。
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