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「だけど、そもそも連絡もせずいなくなった俺が、楓の人生に入り込む余地はないと」
違うよ、知樹。
私の人生には、出会った日からずっと、あなたがいるの。
会えなかった時間も、隣にいるのに他人のフリをしなければならなかった時も、私の心にはあなたが住み着いて離れなかった。
「これは俺に課せられた罰なのだと思った。命より大切な楓を、本当に失ったんだと、愕然とした」
医療ミスがあったあと、彼はその患者のことで頭が一杯だったに違いない。
だから黙って消えたことを、とても責めたりできない。
それに……『命より大切』という思いは、あの日、証明された。
救助が遅れたら、きっと知樹も一緒に……。
それでも彼は、来てくれた。
「だけど、苦しんだのは俺だけじゃないと、帰ってきてから知った。一馬と、うまくいっているんだと思っていた楓が、八幡祭の日に倒れて……俺は楓までこんなに苦しめているんだと……」
彼は私から視線をそらさない。
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