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「やっぱり一馬、休めなかったね」
「大丈夫。予約しといたから、飛騨牛」
「ホントに?」
春の山王祭。
今年は朝から空が晴れ渡り、絶好の祭り日和となった。
知樹とふたりで、まずは古い街並みに足を延ばす。
「一馬に内緒で食うか?」
「うん!」
あの牛肉の串焼きは、私達の思い出の味。
「でも、飛騨牛予約したんでしょ?」
一口食べると、ジューシーな肉のうまみが口いっぱいに広がる。
「そうだけど、これは別腹」
クスクス笑う知樹は、あの頃と変わらない優しい顔。
ゆっくりゆっくり人ごみをかき分けながら歩き、やがて中橋まで到達する。
「桜……」
「今年は開花が早かったから、いつもよりきれいだ」
風に吹かれてハラハラと舞い散る桜の花びらが、宮川にポトリポトリと落ちていく。
「そういえば……」
知樹はスマホを取り出して、私に写真を見せた。
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