未来は、きっとあるから

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「これ……」 別れる前、知樹に送った最後のメール。 宮川が桜の花びらでピンクに染まった、あの写真。 「まだ、持ってたんだ」 「うん。これを見るたび、楓を思い出して……自分を奮い立たせてた」 知樹は不意に私の腰を抱いた。 「今年は一緒に見られるな」 「……うん」 ふたりで見上げた空には、春の風が吹いていた。 からくりが行われる陣屋前は、相変わらず人の渦ができている。 「見えるかな……」 背の高い知樹は、私の視線まで下りてきて、見えるかどうか確認している。 「うーん。ちょっと見えない」 私の前には、背の高い外国人観光客。 だけど、見えなくたっていい。 こうして知樹とふたりでここに来ることができたのだから。 「よし、移動開始」 知樹は子供の様に目を輝かせ、私の手を引く。 「どこも一緒だよ」 「いや、必ず楓に見せてやる」 もう何度も見たのに?
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