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「龍神台だ」
からくりが始まると、ふたりとも無言になる。
だけど、狭い場所で私を後から抱える様に抱きしめる知樹は、その手に力を込めた。
やっと……やっとふたりでこの光景を見ることができた。
知樹と連絡が途絶えて、絶望したあの日。
一馬の告白を受け入れたあの日。
そして、深い雪をかき分けて、私を助けてくれた、あの日。
ここ数年の出来事が、頭の中を駆け巡り、胸がいっぱいになる。
「うわー!」
壺の中から龍神が現れると、観客の興奮が一気に高まる。
「いつ見ても、すごいな」
「うん」
彼の体温を感じながら、飛騨の最高の楽しみを味わえる幸せに酔いしれる。
高山に生まれて、幸せ、だ。
やがてからくりが終わると、すごい勢いで人が移動し始めた。
だけど……。
「楓」
「ん?」
彼の筋肉質な腕に触れながら振り向くと、彼は手を離して、私と向き合った。
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