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「それで、どの子?」
突然知樹が小声で話し出す。
「その件は、プライバシーがございまして……」
と言いつつ、一馬の視線はラウンジに一瞬向いた。
「なるほど、ラウンジですね」
「いえっ、違いっ……」
知樹がクククと笑う。
一馬は最近、ホテルの女の子に告白されたと言っていたけれど、きっとその子のことだろう。
「コーヒー飲みたいな、楓」
「うん」
「はぁ」と盛大な溜息を漏らす一馬は、観念したようだ。
「それではラウンジへどうぞ。言っておきますけど、一番かわいい子ですから」
私達の部屋の鍵をくれた一馬は、なぜだか自慢顔。
「えっと、進展は?」
「ございましたが、なにか?」
他の客には見えない様に、下の方で親指を立ててみせる。
それじゃあ……。
彼女ができたんだ。
一馬はあれから、「楓に謝られるほど、落ちぶれちゃいない」と言うのが口癖で、私と知樹の応援をしてくれるようになった。
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