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毎日一緒にいてすぐに手をさしのべてくれていた知樹は、もう簡単には会えないところに行ってしまう。
そして、大切な家庭までも、失うことが決まった。
そんな不安は、知樹への気持ちをますます加速させた。
「楓」
優しく私の名を呼んだ知樹は、「ずっと大切にする」と囁きながら温かいキスを落とす。
触れるだけだった唇が、次第に熱を帯びてきて、私達は強く強く抱き合った。
「楓、抱いてもいい?」
知樹の言葉にコクンとうなずく。
初めてが怖くなかった訳ではない。
でも知樹なら……。
ううん。知樹に抱いてほしい。
きっと知樹だって初めてだ。
けれど、ぎこちない動作も少し強すぎる愛撫も、やがて喜びにかわる。
大好きな知樹と、ひとつに……なれる。
「んーっ」
顔をしかめると、知樹は驚いて動きを止める。
「楓?」
「大丈夫。だって知樹が幸せにしてくれるんでしょ?」
私の目尻から涙が一筋こぼれるのを見た知樹は、それを手ですくって愛おしそうに見つめた。
「楓の涙は俺が受け止める。だから楓はそばにいてくれるだけでいい」
そうやって彼は、私に居場所をくれた。
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