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「お父さんは東京に行くことになっている」
「東京?」
「あぁ。会社が関東に進出するんだ。そのプロジェクトに入ることになっている」
用意周到だった。
まるでこの日を待っていたかのように。
「お母さんは、三重の実家に帰るわ。おばあちゃんひとりだしね」
「それじゃあ、この家は?」
「この家は売りに出すことにしたの。楓、あなたは……」
「そんな!」
父と母が別れても、ここだけはずっとあると思っていたのに。
看護大学の近くにワンルームの部屋は確保してある。
だから生活に困ることはないけれど……。
だって私達は、ここでずっと生きていくために今から大学に行くんだよ。
それなのに?
あまりにショックで放心状態になった私のかわりに、知樹が口を開いた。
「僕達は……ずっと飛騨で生きていきたいと思っています。この家がなくなったら楓さんは……」
知樹の言葉に父が眉間シワを寄せた。
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