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「楓。手、冷たくなってる」
「だって寒いんだもん」
手をこすりあわせるけれど、ちっとも温まらない。
「飛騨の女のくせして」
「そんなの関係ないよ」
一馬とそんな会話を交わしていると、周囲がざわつき始めた。
もしかして、中止?
「やっぱ、ダメか」
「うん、残念」
その時、ふと思い出してしまった。
あの日も――一年前のあの日も、こうして山王祭の日に雪が舞ったことを。
そして……今でも鮮明に頭に浮かぶ光景が、私を苦しめる。
「今日は残念だったけど、いつか三人で来ような」
「三人?」
「そう。俺と楓と俺達の子と」
それって、まさか……。
「知樹(ともき)……」
「これって、プロポーズだから」
私の髪に着いた雪を払いながら優しく笑った知樹は、ここにはいない。
約束、だったのに。
あなたと私と私達の子と、ここであのからくりを見るのが。
「楓、どうかした?」
「なんでも、ないよ」
一馬の視線から逃れたい。
勘のいい彼に、すべてを見透かされてしまいそうだから。
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