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知樹のお父さんとお母さんも来てくれた。
「楓ちゃん、知樹をよろしくね」
「おばさん、本当にお世話になりました」
何度も何度も私の窮地を救ってくれたのは、知樹だけではない。
時には家に泊めてくれた知樹のお父さんとお母さんもそのひとりだ。
母が知樹の両親にしきりに頭を下げていて、少しうれしかった。
ここに家がなくなるのはとても悲しいことだけれど、なんだかすべてが解決していくような気がしたから。
新しい未来が始まった、ような。
「楓、そろそろ行くぞ」
ホームに走り込んできた特急ワイドビューひだは、私達を乗せて走り出した。
大きな荷物はもう引っ越し屋に引き渡してある。
私達はボストンバッグひとつで大好きな街を飛び出した。
「知樹」
「ん?」
「いよいよ、だね」
春というにはまだ肌寒い高山は、もうすぐ山王祭を迎える。
「祭は帰ってこような。今年は無理かもしれないけどさ」
「秋はどうかな」
「秋は来よう。一馬も誘って」
「うん」
私は必死に未来を見ようとしていた。
知樹がそばにいてくれる。だから、きっと……。
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