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「楓、夜祭も行くだろう?」
「うん。一馬は?」
「お前さぁ、昼間でも迷子になりそうなのに、暗い夜道をひとりで行かせられるとか思ってんの?」
高校生までは、私の方が面倒を見てあげていた気がするのだけれど、一馬は就職してから、グーンと大人になった。
「一緒に行ってくれるの?」
「当たり前。こんなに手のかかるお嬢様の面倒見てくれるの、他に誰がいるんだよ」
一馬のさり気ない優しさに、時々泣きそうになる。
私の一番が、もし彼だったなら……。
「でも、忙しいよね」
「そうだな。夜祭を見たらそのまま夜勤だ」
「そうなの?」
「でも、いいや。お前といると楽しいし。取りあえずみたらし食おうぜ」
少し強引に私の手を引く彼の後姿に、「ありがとう」と心の中でつぶやいた。
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