山中の旅人

10/11
前へ
/11ページ
次へ
うっかり手を滑らせてしまった。 床に汁が飛び散る。 「ごめんなさい、うっかり・・・」 次の言葉が出なかった。 口が思うように動かない、それになにやら息苦しい。 金魚のように、バカ正直に開閉することしかできない。 それだけではない。 手も足も、力を失ったかのように動かせなくなってきた。 「山のもんより肉付きはアレだが、三日ぶりだ」 男がむくりと腕を動かし、懐から何かを取り出した。 私の手がほとんど隠れるんじゃないというぐらい大きな、サバイバル ナイフ。 叫ぼうにも、声がでない。 「ごめんなあ、道夫は血の気のあるもんしか食えんから」 こいつは何を言ってるんだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加