流れ星

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特別何かをしたわけではない。 この地区に同い年の子供がいなかったこともあってか、はたまた自分より大人びた雰囲気の子だったせいか、俺は彼に興味津々だった。 いつも親かチビらと行く虫取り。でも、彼は今までに一回も虫取りをしたことがなくて、俺は笑いながら、彼に網の使い方を教えた。 裏山の奥にある、大人でも行くのを躊躇う洞窟に一人で行くと怒られるからと内緒で彼も連れていき、二人して怒られた。その時の彼の不思議そうな顔といったら今でも笑ってしまう。後でなんであんな変な顔をしていたのかと聞いたら、怒られたことがなかったからどうしたらいいのか分からなかったと言っていた。その当時は、単純に羨ましいとしか思わなくて、彼が俺との日々をどんな気持ちで過ごしていたかなんて考えもしなかった。 夏休みの1か月。俺が夏風邪で熱を出して倒れていた3日間以外は、毎日彼といた。何をしても楽しくて、今、考えたらおかしいと思うことはいっぱいあったはずなのに、彼はずっと微笑んでいた。 そう、ずっと、微笑んでいたんだ。 まだたったの小学5年生でしかない子供が…。 彼はただ毎日が楽しいと言っていた。俺にとっては当たり前でも、彼は毎日が夢じゃないかと思うほどに楽しいんだといっていた。だから俺も単純に嬉しかった。庭で花火をして、近くの川で泳いで、流されていく彼を助けて、釣りをしながら二人とも眠って、隣同士なのに、お互いの家に泊まりあって…。 いつも彼は聞いていた。俺の話を。俺が生まれた時のアルバムを開いて、昔からここで生まれ育った俺を彼はとても羨ましいと言っていた。 でも、俺は彼についてほとんど、何も知らなかった。知っていることと言えば、家族は3人で、お父さんとお母さんは仕事で海外にいるということだけだった。それこそ俺からしてみれば、話が大きすぎて、漫画の主人公のような話だなと言ったんだ。 そう、俺はそう彼に言ってしまったんだ。 親はお金持ちで、何不自由なく、暮らせる子供。親にはほとんど会った事がなくて、もちろん怒られた経験なんてあるはずがない子供。 漫画だから憧れたんだ。そんな現実があるなんて思うわけもなくて。 でも、彼は俺にいったんだ。 ―そんな漫画の主人公も、今の僕を見たら羨ましがるだろうね、きっと…―
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