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◇
将来、国を背負う官僚になる学生たちが集まっているのが太学だ。
その特殊性もあって、太学生には、取り調べられはしても、疑いだけでは拘留されないという特権がある。勉学にさわるからである。
つまり、任意同行、任意取り調べしかされない権利。
そして、太学には太学内と学生の犯罪を取り締まる部署がある。監学という。
秦盟は取調室に呼ばれた。
つけている記章から監学官はわかったが、他に官吏のつける礼服を着た男がいるのが、冊社省の役人だろう。
「秦盟だな」
監学官がたずねる。
「はい」
成績不良で呼び出されたことさえない秦盟は、呼び出されて問責されるのは初めてだ。神妙に答えた。
「昨日はどこにいたか、正直に答えなさい」
「塾で学び、友と会って茶を飲み、寮に帰りました」
「それだけか?」
「はい」
「蓮華寺に行った覚えは?」
秦盟は、はっとした。
やはり!
「そなたの学章だ。見覚えがないとは言わせぬ」
示されたのは、明らかに、秦盟のものだ。学章には記号が彫られていて、誰のものかわかるようになっている。
「昨日なくして、探しておりました」
嘘はない。秦盟は、顔を上げて、はっきりと答えた。
「昨日、蓮華寺で人が殺された。その蓮華寺の境内に落ちていたそうだ。
覚えはないか?」
人が殺されたのを、すでに聞いていて驚かなかったのを、どう見られたか。そこまで考える余裕はない。
「どこで落としたのかと思っておりました」
「蓮華寺に行った覚えはないのか?」
「ほんのわずかですが、参りました」
「まことか? 先ほどは何も言わなかったではないか」
「友人と、境内で話をしようと思って足を向けたのですが、先客がいらっしゃるようでしたので、他に行きました」
「その時の様子を話しなさい」
「はい。友人と2人で、蓮華寺に参ったところ、本堂に灯かりがついており、人がいる様子でした」
「何人ぐらいいたのだ?」
「そこまでは。ただ、言葉を聞き取れはしませんでしたが、複数の人が集まっているようでした」
「先ほどから友人と言っているが、どこの誰だね?」
「桂薊児です」
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