1mmの距離

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「……でさぁ、聞いてる?」 「え?」 「聞いてなかったわけね」  彼はため息を吐いた。 「僕にとっては一大事なんだよ。頼むから相談に乗ってくれよ」 「一大事って?」  そう聞き返すと彼は一通の封筒を差し出した。 「ら、ラブレター?!」  思わずあたしは大きな声を出してしまった。  そういえば誰かが言っていた。  彼は成績が良い。平々凡々だというのは、身近に居過ぎるから感じているものかもしれない。学年10位以内に入る成績を持つ彼に、いつ注目が浴びせられてもおかしくないことだった。  ちなみにあたしも勉強は得意で必ず学年10番には入っている。  ラブレター、か。  胸のうちで反復してみる。  余程あたしが怪訝な顔をしたのだろう。彼は目を泳がせた。  親友同士のあたしたちは普段一緒に居ることが多く、だから付き合ってると誤解している人のほうが多い。そこに件のラブレターとは。 「前に貰ってただろ? 呼び出されて告白されたりもあったじゃんか。頼むよ、対処法教えてくれ」  どうしようもない情けない表情を浮かべて懇願してくる。  あたしの場合、好きな人が居るからと上手く断っている。  たまたまあたしが今横にいて、だからそんなことを聞いてきたのだろうか。  今まではどうしていたのだろうか。  今までもこんなことがあったのだろうか。  ないからわたしに聞いてきたのかもしれない。  胸が締め付けられる。  わたしは自分自身を傷付けない言葉を探してみた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加