第1章

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「メロおはよう。今日もおいしそうだね」  今日のお客第一号。は、数日前から変わっていない。メロはワンピースの裾を揺らして立ち上がった。 「それでも、お客さんが来なきゃ意味がないわ」  メロはため息とともに、最近常連になりつつあるニコルにそう言った。 「おはようニコル。いらっしゃい」 「うん、メロは今日も無表情だね。笑ってくれない?」  軽い調子で彼が言ってくるのもいつものこと。メロはまた小さくため息をついた。 「パンはおいしいんだからいいでしょ? どれにする?」  つれないなぁ、なんて言いながらニコルはかごとトングを手に取った。  正直メロだって、自分でもどうかなぁとは思っている。接客業で笑顔を作れないのは死活問題だろう。  だけど笑顔を浮かべるわけにはいかないのだ。 「そういや昨日、エンジェルパン店に行ってみたよ」  その店の名を聞いてメロの心はつきんと痛んだ。  町中にあるエンジェルパン店。立地の良さもさることながら、店主のアンジェリカは美しく、その笑顔のとりこになった人たちで人気のパン屋らしい。一方、味はというと――
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