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「肝心のパンがもう、まっずくて。やっぱりメロのパンがいちばんだね」
それを聞いてメロは内心ほっとした。両親から受け継いだこの味を、落とすことだけは避けたかった。
「ねぇ」
ニコルはかたんとかごをカウンターに置く。
「メロが笑えば、もっとお客さんが来ると思うよ?」
至近距離で真剣な瞳を向けられて、メロは少したじろいだ。それでもなんとか気を持ち直し、ニコルを押しのけパンを紙袋に詰めていく。
「余計なお世話よ。はい、五五〇マルクね」
苦笑してニコルは硬貨を払うと、「また来るね」と言って出て行った。メロはただそれを黙って見送った。
○●○●○
メロが両親からカリメロを継いだのは、一年ほど前のことだ。長年この店で修行してきて、去年ようやく一人前だと認められた。
そして世界を旅して回りたいという両親の跡を継いで、メロが店主となったのだ。
最初の数ヶ月は順調だった。笑顔の可愛い店主と、おいしいパン。町外れという不利な立地ではあるが、売れ行きは上々だった。
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