第1章

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「肝心のパンがもう、まっずくて。やっぱりメロのパンがいちばんだね」  それを聞いてメロは内心ほっとした。両親から受け継いだこの味を、落とすことだけは避けたかった。 「ねぇ」  ニコルはかたんとかごをカウンターに置く。 「メロが笑えば、もっとお客さんが来ると思うよ?」  至近距離で真剣な瞳を向けられて、メロは少したじろいだ。それでもなんとか気を持ち直し、ニコルを押しのけパンを紙袋に詰めていく。 「余計なお世話よ。はい、五五〇マルクね」  苦笑してニコルは硬貨を払うと、「また来るね」と言って出て行った。メロはただそれを黙って見送った。    ○●○●○  メロが両親からカリメロを継いだのは、一年ほど前のことだ。長年この店で修行してきて、去年ようやく一人前だと認められた。  そして世界を旅して回りたいという両親の跡を継いで、メロが店主となったのだ。  最初の数ヶ月は順調だった。笑顔の可愛い店主と、おいしいパン。町外れという不利な立地ではあるが、売れ行きは上々だった。
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