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それが急変したのが半年前。
「店主はいらっしゃる?」
カランカランとドアベルを鳴らして入ってきたのは、黒いローブを頭から被った女だった。閉店間際の店内。もう日は沈んで、店にはメロとその女の姿しかない。
「私が店主ですが……」
怪しげな女に、メロは恐る恐る答える。女の口元がにっと弧を描いた。
「あなた、笑顔が素敵よね」
女は一歩近付いてきた。
「パンもおいしいわよね」
また一歩近付いてくる。尋常ではない女の様子に、メロは一歩、また一歩と後ずさりした。カウンターに背が触れる。
女が手を上げた。たまらずメロはぎゅっと目を瞑った。瞬間、冷たい突風がメロの顔に吹き付けた。
風が止んで、メロはそっと目を開ける。目の前にはもう女はおらず、ドアを半分開けていた。
「気を付けなさい、店主メロ。あなたが笑えば店は潰れる。……その呪いを人に話してもね」
それだけ言うと、女はローブを翻して出て行った。
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