1人が本棚に入れています
本棚に追加
異変に気付いたのは次の日だった。
いつものように、おいしくなれ、おいしくなれと願いを込めながら、笑顔でパンを焼いていた。しかし普段どおりに膨らまない。それなりに見栄えがいいものを味見してみたが、これがおいしくない。
昨夜の女の言葉を思い出していた。
『あなたが笑えば店は潰れる』
あれはこういうことだったのかと理解した。笑顔を浮かべればパンがまずくなる。そんな呪いだろう。
顔を強張らせながらもう一度パンを焼いてみると、今度はうまくいった。ほっと小さく笑みを浮かべると、急に手の中のパンがぱさぱさになってしまった。
焼き上がったあとでもあの呪いは効くのか――。
あの女が魔女だったことは、もう理解していた。だがなぜ魔女が自分なんかを呪うのか、メロには予想もつかなかったが。
ただ、すぐに考えなければならないことは一つ。味を取るか、笑顔を取るか。
考えるまでもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!