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気がついた時には、そこに寝かされていた。私はそっと頭をあげて当たりを見渡す古い小屋だ。あちこちが痛みすきま風が入り込んで来ているが囲炉裏で灯される炎が私の身体を温めていた。温かさとは裏腹に私の心は冷たい。
(追い剥ぎ、ではないみたいね)
薄汚れた着物をそっと直す。記憶を覚えているところまで思い返していく、そうだ。私は裕福な屋敷に忍び込んで残飯を漁っていたところを家主に見つかり袋叩きの目にあったんだった。犯されなかっただけましか、傷だらけの身体だがじっとしていれば癒えるだろうが、見ず知らずの男にこの身体を弄られるのは我慢ならない。
別に綺麗な身体というわけじゃない、私を引き取った男はまだ、十歳にも届かない私を犯したのだから、あの時の屈辱は今でも身体の奥底に傷として刻み込まれている。
『お前は弱い、なぜか、わかるか?』
男は泣きじゃくる私を見下ろし言う。
『それはお前が女だからというわけじゃない、お前が痛みを知らないからだ。女だろうが、男だろうが痛みを知っている者こそ強いのだ』
何度も何度も私の身体を犯し、痛みを刻み込み。
『この世は弱肉強食だ。だから、お前も強くなれ、汚く狡く騙し嘘を吐け、女としての機能を使え身体に刻み込め、女だから弱いなどという戯れ言だということを知れ』
所詮、この世は弱肉強食、男は口癖のようにそう言った。押し入った強盗にあっさりと殺されるまで男はそう言い続けていた。
崖から転げ落ちるような人生だ。押し入った強盗を騙して油断をついて刺殺し、金品を奪って逃げるまで様々な悪事を働いてきた。もう一度でも落ちてしまえばもう戻ることはできないだろう。私が死ねば行き先はきっと地獄に違いない。
手足は縛られてはいないけれど、この古い小屋に連れ込んだ『誰』かの目的がなんであれ、けっして良心だからというわけじゃないことは確かだ。自分の性欲を満たす為の道具にされるか、悪事をたてにして強請られるか、はたまた、奴隷のようにこき使われるか、悪い方向ばかりに思考が傾いていくけれど、それでも構わないと思った。この古い小屋で野垂れ死んでもそれはふさわしい死に様だろうと思うからだ。心は凍てついてけっして温まることはないんだから、死んだって構わない。 そう思っていた。
…………ガラリ、
建て付けの悪い扉がガタガタと音を立てて開き、そこには痩せこけた眼鏡の男がいた。
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