愛のためなら人を殺す。

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「…………」 「わかりにくなった?」 いや、わかる。男女が同じ場所に居続けているんだから色恋沙汰になったとしてもおかしくない。 「あんたの気持ちは嬉しいけれどね、あたしはあんたが思ってるような綺麗な女じゃないよ」 「いいんだよ」 「あんたがよくても、あたしがよくない。言っておくけどね。あたしは罪人なのさ」 それこそ捕まれば死刑を宣告されるような悪党だというのに、どうして私は押し倒されているんだろう。 「構わない。僕も同じなんだから、だって僕は、僕の物語を書くために人を何人も殺してきたんだから、同じ罪人同士なんだから、僕は……」 それ以上、言葉が続くことはなかった。男の唇で私の口を塞さいでいたからだ。 んっ、うぅ……うぅと吐息がもれた。男と身体が重なり合う、この貧相な男くらい突き飛ばすことはできるのに抵抗することはできなかった。この男を好きになったというわけじゃない、そんな甘ったれた感情はとっくの昔に捨ててしまったし、接吻程度でときめくような乙女にでいるつもりもない。 「あたしを、殺すつもりだったのかい?」 男の目が見開かれた。驚きというやつか。 「別にあんたがやってることが嘘であれ、真実であれ責め立てるつもりはないよ」 そもそも私はこの場で殺されても、同じくらいにこの男を殺すつもりでいたんだから責め立てる権利なんてもとからない、なぁなぁな関係をズルズルと引きずってきたようなものだ。 「殺すつもりはなかった。いや、僕はいつも人を殺すつもりなんてないんだ。ただ、物語を書くためにより忠実な表現が必要とされるとき、抑えられない衝動に支配されるんだ」 懺悔のような男の声、芸術のために人を殺す男。私が感じたモヤシのような雰囲気すらもこの男の特性のようなもので、相手を警戒させることなく近寄れる。弱肉強食でいうなら弱者の皮を被った強者か、いや、狂っているというのなら狂人なのかもしれない。 「君を見つけたときも同じ気持ちだったんだ。道端でぼろ雑巾のようになっている君はとても綺麗だったんだ」 「…………」 「君のことを知りたいと思った。何もいらない、何かをしてほしいわけじゃないんだ。ただ、君のことを知りたい。それだけだったんだ」 無償の愛ってやつなのかもとごまかすように言った。違うと感じた。それは無償の愛なんかじゃない、まぁ、私にも無償の愛だなんて知らないけれど、どうしようもない奴
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