1人が本棚に入れています
本棚に追加
春水が首を抑えて、その場に倒れ込む、おびただしい量の血が小屋に広がり春水の書いた物語を真っ赤に染める。思考が一瞬、真っ白になり抜き身の日本刀が真っ白になった思考を無理矢理、呼び戻す。
マズいと思った。この男は相当にマズい。この男は人を斬ることになんのためらいも感じていない、唐突にやってきて春水の首を切り裂くまで流れるような動作だった。淀みのない動作、これは何人も人を斬ってきたに違いない、遺伝子、脊髄反射の領域にまで刷り込まれた技、剣士は人を斬ってこそ半人前らしいからだ。余計な思考に飲み込まれそうになったころには網笠の男は動き出していた。
「なんのつもりだ。なぜ、私たちを狙う?」
「答える義務はないでござる。この世には悪があり、そしてそれを刈り取る悪もいるだけのこととだけでわかってもらえればよい」
「賞金稼ぎのゴロツキ……ってところかね!!」
指名手配中の悪人を狩り、それを職業とする者達。囲炉裏に置かれた鍋をひっくり返し、男にむかって熱湯こど投げつけるが、男はさっと身体を横にずらして避ける。その頃には料理用の包丁を片手に握ってたが、しかし、その動作のうちには男は進んできて、奴の間合いに入ってしまいそして流れるような剣を一閃。
首を上にずれて、両目を切り裂く、視界が真っ赤に染まり瞼と眼球から真っ赤な血液が吹き出した。痛みと視界を失った恐怖が全身を包む。もうすぐ網笠の男がやってくる。
「…………ひな、ひなぎ、ひなぎく、逃げて、にげるんだ」
春水の声が聞こえた。死にかけの弱々しい声に私は少し笑みを浮かべた。もう両目はもとに戻らない。耐え難い苦痛の中で春水の声が聞こえてくる。網笠の男が鼻を鳴らした。油断、慢心した心、きっとこいつは悪党の最後の悪あがきだと思って油断したに違いない。
油断大敵、弱肉強食だとしても、弱者だけが食われることなんてありえない、弱者が強者を食いつくことだってあるんまから!!
「…………っ!?」
ズブリッと包丁が網笠の男の腹部に突き刺さる音が手の伝わる感触と、男のうめき声と共に理解した。
「出て行け、今すぐに、殺されたくなければ出て行けっ!!」
叫び、腹部に突き刺した包丁をかき回す。突き刺さった包丁が内臓をかき乱しているだろうけれど、これが限界だった。両目の出血がヒドくて意識が今にも飛びそうだ。
「くっ、この死にぞこないが!! 離すでござる!!」
最初のコメントを投稿しよう!