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夜の闇すらも明るく照らす無数の光、昼夜の感覚を狂わせる様なこの街並みは、世界が滅びる以前となんら変わりなく存在する。
仕事を終えた人々が、一日の疲れを労う為に足を運び、大通りに面した所では、店の売り子達が、行き交う人々と言葉を交わしている。
かつての栄光、かつての繁栄を漸く取り戻した人間の世界。
世界がフォトンベルトに包まれた事により、世界中のありとあらゆる所で天変地異が起こり、多くの命が無慈悲に散った。
多くの生命が死滅し、多くの種族が絶滅した。
しかしそれでも、人間は生き延びた。
生き延び、そして気の遠くなりそうな歳月を有し、人間は世界が滅びる以前の文明レベルまで回復させるに至った。
今、この街が、この繁華街が、人々で溢れ返り賑わっているのは、先代の人々達による努力が実を結んだ結果であり、その功績の一部であるこの繁華街をビルの屋上から眺めるのが、とある少女の趣味であり、日課でもあった。
と、様々な人々が行き交う繁華街から少し離れた所で、無数のサイレン音が鳴り響く。
繁華街の色とは異なる色を発しながら、漆黒の夜空を別の色で塗り潰していた。
人々の視線も、自然とサイレン音が鳴り響く方角へと向けられるも、直ぐに視線の位置が元に戻る。
自分達には害がないと、そう思っての判断だろうが、その判断が、どれだけ自分自身の身を危険に晒しているのか、誰一人として理解しようとしていない。
いや、正確には理解しているのだろう。
目を凝らして見てみれば、サイレンが鳴り響く方角から、多くの人々が離れていくのがよく分かる。
慌てず騒がず、学校で行われる防災訓練の様な足取りで、その場から離れてゆく人々は、ある意味では模範的な行動を取っていると言っても良いだろう。
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