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それは正しい、その行動は正解だ。
あれを刺激してはならない。
あれに危害を加えてもならない。
あれは人間の生活を脅かす害悪なのだから。
と、少女の意識が繁華街から少し離れた所で鳴り響くサイレン音に向けられた時、少女のポケットの中から携帯の着信音が聞こえてくる。
音に気付いた少女は、携帯をポケットから取り出すと、ディスプレイに映し出された名前を確認し、応答マークを指でポンと叩き、携帯を耳にあてた。
応答マークを押し、携帯を耳にあてるとほぼ同時に、携帯から男の声が聞こえる。
随分と間の抜けた様な、それでいて気怠そうな声。
携帯から聞こえる気怠そうな声に対し、少女は何度か相槌し、携帯を耳から離す。
そして、少女の視線が、サイレン音が鳴り響く方角から、再び繁華街へと向けられた。
大小様々なビルが立ち並ぶ繁華街。
その繁華街の中でも、最も高く建造されたビルの屋上で、光り輝く繁華街を眺めていた少女の瞳が、名残惜しそうにスッと閉じられる。
刹那、少女の身体全体が淡く発光した。
そして――。
「……見つけた」
再び開かれた瞳が、サイレンが鳴り響く方角よりも更に奥、人通りの少ない路地の一角へと向けられた。
ビルの隙間より吹き荒れる風が、少女のスカートをなびき、それを片手で抑える。
心地良い景色と心地良いこの風とも少しの間お別れだ。
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