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繁華街から少し外れた人気のない裏路地にて、全身を覆い隠す分厚いロングコートを羽織った影が蠢いていた。
季節は夏、そして、ロングコートから僅かに覗く顔の部分からはヒューヒューと微かな呼吸音が狭い路地を木霊し、その場の雰囲気と相俟って、不気味さを演じている。
ただ演じているだけならばそれでいいのだが、今回の場合は、そうではない。
その存在の両手には、液体の滴った二振りの鎌が握られ、その鎌と同じ様に、その存在が身に纏っているロングコートにも、同じく鎌に付着した液体が鮮やかに彩られていた。
暫く、薄暗い路地の中を歩いた所で、その存在は、ふと歩くのを止め、壁に寄り掛かる。
「く……く、くくくくく」
ヒューヒューという呼吸音と共に、僅かに覗く顔の一部が大きく歪む。
それと同時に、悦に浸る様な低い笑い声。
それだけで、その存在の気分が高揚している事がよく分かる。
遠くからはサイレンの音が聞こえる。
そのサイレンを鳴らしている存在が、自身を追っている事など気にも留めず、その存在は、唯々己の行った所業を思い返し、悦に浸り続ける。
しかし、次の瞬間、その存在の眼光が、立ち並ぶビルの屋上へと向けられた。
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