冬ほたるに願いをかけて

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『それがベストとは言わないけど、ベターな選択だと思うからさ』 そう告げられて私は、うん、と言うしかなかった。私の恋は終わった。栃木市街地を南北に流れる巴波川(うずまがわ)、凍える冬の夜なのに、そこには無数の蛍が泳いでいた。 *─*─* ……彼と知り合ったのは3年前。 栃木運動公園で開かれていた地元イベント、そこに出店していた地元カフェ「smilebazaar(スマイルバザール)」の出張ワゴンでは普段カフェでは作らないスペシャル弁当が販売されていた。予約は一切受け付けないというオーナー夫妻の意向で、自他ともに超常連と認める私も行列覚悟で会場に向かった。有機野菜を使用する人気カフェ、それだけに並んだ人は50人以上。10月も末、日が陰ると肌寒い中、30分も並んでゲットした。ほんのり温かいお弁当をそっと抱えてベンチを探し、座ると膝に乗せる。ワクワクしながら蓋を開ければ、木々の紅葉に負けじと色とりどりのおかずとサンドイッチが詰め込まれていた。思わず頬は緩む。 「危ない!」 「え?」 「ああっ!!」 その男性の声と同時に急に暗くなる視界、バサリと物が落ちる音、トントントンと何かがバウンドする音。額から眉頭にかけてキンと痛む。暗闇の中で星が飛ぶ。 「いたた……」 クラクラとめまいを覚えてゆっくり目を開けると目の前には壁がそびえ立っていた。
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