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「萱野さんに村祭りの記事を依頼していますか?」
「あなたは?」
不審がられても構わない。時間がないから直球勝負だ。
正直に自分の身分を明かして再度訊いた。
相手は一瞬絶句する。
なんだか恋人に逃げられて必死に探している未練がましい女と思われそうだが、心配していることを全面に出して押し切った。
でも必死に訊いた問いにどこからも「最近は頼んでいません」しか返ってこなかった。
全部電話してしまった。
どの出版社も今度の萱野の仕事に合いそうな依頼はしていなかった。
「おかしいな。初めての仕事なのかな?」
初めての仕事だとお金の支払いが3カ月先とかで極端に遅かったりするので、萱野は取材費を即金で支払ってもらえるか、前借りできるなど、融通してくれるなじみの仕事を優先していた。
出掛ける前に萱野はお金について何も言っていなかったから、多分充分取材費はあったに違いない。
それに萱野が新規開拓の営業を掛けているとは思えない。
そのような話を聞いたこともない。
元々自然ドキュメンタリーの映像を撮る会社で働いていて、そこが倒産した為にやむなくルポライターに転向した萱野なので、編集のつてを持っていない。
新規で仕事を請けるとしたら、誰かの紹介のみ。
となると今までしてきた仕事から探せば必ず繋がるはずだ。
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