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〔一〕
通りを見下ろす窓側の席に、男と僕は座った。
平日の夜のファミレスに家族連れの姿はほとんどなく、お手軽なデートを楽しむ仕事帰りのカップルと女同士の客が目立っていた。
ウエイトレスがメニューを持ってきた。
男はメニューを手にとると口を開いた。
「どうしましょう」
「どうしましょうって、何がですか」
男が何を言いたいのか、僕には分からなかった。
「いや、夕食時ですしね。 何か食べるのかなと思って、いや、私だけ食べるっていうのもなんだしね、あなたが食べるのなら、私もなんか食べようかなって、いや、何が何でも食べたいってわけじゃないんですが、ねえ、夕食時ですし、お腹もすいてきた頃かな、と思って」
この男はどんな時でも食欲を失わないらしい。年は四十代半ばくらいだろうか。巨体が、しっかりと脂肪を貯めこんだ腹回りが、男の食欲を証明していた。僕も腹が減っていた。会社を出てからまっすぐ渋谷に来て立ちっぱなしだ。
僕の胃は食べ物を要求している。それは分かっている。しかし、その空腹感と食欲が結びつかなかった。
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