僕の話

22/167
前へ
/320ページ
次へ
…翌日、昼前に目が醒めました。赤い靴は昨日僕が置いた机の上に、昨日のままありました。夢じゃなかったんだ。そう思いました。午後から授業があったので、すぐに出かけて、その日もバイトに行って、帰ってきたのは十二時過ぎでした。 電気を点けると靴はそのままありました。古ぼけた僕の部屋に、赤いハイヒールだけが異質に輝いて、そこにありました。何でこんなもの持って来ちゃったんだろう。自分が持ってきたのに、分かりませんでした。別に女装趣味も、ゲイの気もないし、あったとしても小さすぎて履けるわけないし、靴フェチでもないし、どうしたかったんだろう。自分に問いただしても、答えは見つかりませんでした。 どうしていいか分からなかった僕は、その靴を放っておきました。考えないことにしたんです。でも、目をさますとそこにあるし、帰ってくるとそこにあるし、赤い靴が目に入るたびに、問いつめられているような気がしました。「あなたは何で私を拾ったのか、何で私を部屋に持ち帰ったのか」靴が言っているような気がしました。「分からない、分からないんだ。僕にも分からないんだ」赤い靴を見るたびに、心の中でつぶやいていました。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加