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まず、メーカー名がどこにもありませんでした。それどころか、サイズさえ書いてありません。靴底にも、中敷にも、何も書いてありませんでした。
作りはすごくしっかりしていました。底もゴムではなく革でした。朱色がかった明るい赤で、濡れているような輝きがありました。そして、その時も靴は暖かく感じられました。その靴の革は今まで触ったことのない感触で、手に吸いつくような柔らかさがありました。生きている動物のような柔らかさでした。きっと手作りの特注品で、すごくいい革を使ってるんだろう、そう思いました。
その時、気づいたんです。その靴が異様に大きいことに、気づいたんです。
拾ってきた時には、そんなに大きいとは思いませんでした。確かめたわけじゃないけど、普通の女物のサイズだったと思います。大きくなったのか、育ったのか、まさか?女物だから、ハイヒールだから、小さいと思い込んでいたに違いない、そう思いました。よくよく見ると、僕でも履けそうな大きさでした。僕の靴のサイズは二十六ですよ。笑っちゃうような大きさですよ。僕はベッドに腰掛けて左だけ履いてみました。僕の大きな足がスッと入っちゃいました。
びっくりしましたよ。この靴を捨てた奴は何者って思いました。オカマ、外人、まさかバスケの選手?僕が履けるハイヒールなんて、誰だって笑っちゃいますよ。そうだ、通販かなんかで間違って巨大なサイズ買っちゃって捨てたに違いない、そう思いました。でも、こんなサイズありかな、海外の通販かな、とかいろいろ考えました。
もちろん、今までハイヒールなんて履いたことないし、おまけに真っ赤だし、僕のごつい足と赤いハイヒールの組み合わせが妙で、変な気分で、しげしげと自分の左足を眺めていました。そして、右も履いてみました。右足もスッと滑るように、靴の中に吸い込まれるように、入っていきました。
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