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「ここ喫煙席ですよね。おたく吸います。ああ吸いますか、よかった。最近肩身が狭くってねえ。うちなんかもうダメ。前は社内で吸えたんだけど、今じゃ外ですよ」
男はくたびれた背広のポケットからマイルドセブンとブルーの百円ライターを取りだすと火をつけた。僕もブルゾンのポケットから煙草を出して火をつけた。
春はまだ始まったばかりだったが、強い南風が気温を押し上げていた。夜だというのにコートを脱いで歩いている人がけっこう見えた。不動産屋ののぼりが風に吹かれて悲鳴をあげていた。僕は煙草を吸いながら道行く人を眺めていた。
反対側の歩道を赤いハイヒールを履いた女の子が歩いていた。まだ十代だろうか。真っ赤なミニスカートに真っ赤なハイヒール。気だるそうに動く赤いハイヒールを僕は目で追っていた。
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